GlycoStation誕生秘話(9)

GlycoStation誕生秘話(9)

EMCCDのディスコンは、本当に悩ましい問題となりました。GSR1200で採用していたEMCCDは、フローベル製で高い性能をリーズナブルな価格で実現できていました。イメージングデバイスは、CCDからCMOSへ世代交代をしており、EMCCDも完全になくなった訳ではないのですが、500万円から700万円といったレベルのEMCCDしか市場には存在しなくなっています。糖鎖プロファイラーの市場で受け入れてもらえる定価から考えると、こんな高価なEMCCDを使うわけには行きません。仕方なく、CMOSデバイスからノイズが少なく、400万画素、ピクセルサイズも6um以上となるようなデバイスを選んできました。

早速GSR1200に仮組してスキャンしてみたところ、全く画像が見えず焦りまくりました。従来のGSR1200では考えられないほどの長時間露光でスキャンしたのですが、何も見えません。いや、よく見ると何か見えているのですが、暗すぎて何も映っていないと勘違いしました。
「これは不味い、不味すぎる」
EMCCDはショットノイズがすごいですが、最大1000倍の増感効果はやはりすごいです。

この問題を解決してGSRにハイエンドにふさわしい性能を持たせるには、光学系を刷新するしかないと考えました。そして感度は高NAのレンズと長時間露光を組み合わせて稼ぐので、スキャン速度も大幅に上げないと目標スペックを満たせません。必要な光学系の基本性能を考えると、以下のような仕様となりました。

  • 等倍無限遠補正光学系
  • 焦点距離=40mm
  • WD=18.5mm
  • NA=0.35
  • 被写体径=Φ17.00mm
  • 光学全長=130mm
  • 歪曲収差=0.1%以下

早速、ありとあらゆる光学メーカーのFAレンズを調べたのですが、上記の性能を満たせるようなレンズが存在しません。
「ああ、そうなんだ、こんな使い方をしている装置はないということだな~~」そう思いました。
「なら、新たに開発するしか手がない」
そう思って、光学メーカー数社にコンタクトしました。
答えは「山田さん、この性能をだそうとすると、半導体の高性能ステッパー並みだし、開発費に億円かかりますよ」
「・・・・・無言・・・・・」

そんな開発費は逆立ちしてもないです。それにそんなに開発費を掛けたら、事業として開発費の回収目途が立たなくなります。そこで、思い切って「自前開発でやることとしました」。レンズを作るには硝材を溶かしてレンズの型に入れ、磨き上げるという作業が必要なので、最終的な試作は委託せざるを得ないのですが、設計さえ出来ていたら格段に安く上げられるはずです。結果として、1本のレンズを50万円程のコストで作ることに成功しました。

以下が世界にふたつとないGTレンズ(GSR2300用)です。この開発費は、産総研の久野先生からの声かけで参加させて頂いた「AMED糖鎖創薬プロジェクト」から捻出できました。
これがなかりせば、GlycoStationは2016年にディスコンの運命となっていたことでしょう。
「ありがとうございました」
「感謝しかありません」


(完成したGTレンズ)

scanned images with digital binning
新機種GSR2300で得られたスキャン画像、Digital binning機能も追加、スキャン時間はこの例では10秒以下と超高速です)

GlycoStation誕生秘話は、これを持って完了と致します。
本GlycoStation開発秘話を、今は亡き故日本レーザ電子社長)米田勝實氏、故GPバイオサイエンス社長)高畠末明氏の追悼と致します。
全部で9話ありますが、お時間のございます時に全話を読んで頂けると有難いと思っています。この全9話は、ゲームで言えばメインクエストでして、サブクエスト的な秘話も沢山あります。本GlycoStation誕生秘話の番外編を今後三日間にわたってお届けします。番外編:再生医療、番外編:GLI、そして番外編:精神安定剤、の予定です。

 

今日現在、GlycoStationは、合同会社エムック(emukk LLC)にて生き続けています。合同会社エムックは、GlycoStationとLecChipをご愛顧して下さるお客様がいらっしゃる限り、共に歩ませて頂くつもりです。今後とも変わらぬご支援とご愛顧をお願い申し上げます。

Mx

糖鎖プロファイリング技術のパイオニア 環境再生型農業の実現

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