ヒト・レクチンを搭載するレクチンアレイの登場

Department of Life Sciences, Imperial College, London SW7 2AZ, United Kingdom のグループは、ヒト・レクチンを用いたレクチンアレイに関する論文を発表しました。
ヒト・レクチンを搭載するレクチンアレイ

本論文は、2023年8月27日~9月1日に台北で開催されたGlyco 26において口頭発表された研究が論文化されたものです。
39種類のヒト・レクチンがスライドグラス上に固定化されています。

現存するレクチンアレイ(LecChipなど)は、主に植物レクチンを使用しています。このタイプのレクチンアレイは、比較糖鎖プロファイリング解析を行う上にいては、十分強力です。しかしながら、ヒトと病原体との相互作用を解析するには、このタイプのレクチンアレイよりも、ヒト・レクチンアレイを用いた方がベターかも知れませんね。

LecChip(レクチンマイクロアレイ)のデータを用いてDeep Learningで糖鎖の構造や細胞種などを機械学習を行わせる時の環境構築とPython Script例

LecChip(レクチンマイクロアレイ)のデータを使用して、糖鎖の構造、細胞種などを判別させるためには、Deep Learningを使用して沢山のデータを機械学習させる方法が有効です。
これを行う為に必要な事前準備は、以下となります。
Python(以下ではAnaconda3を使用)
Tensorflow
Keras
先ずは、ご自身のパソコンにこれらをインストールして環境構築を行ってください。

このような事前準備の面倒臭さを省き、Deep Learningのネットワーク構成をマウスでのクリック動作だけで出来るようにしたのが弊社製品の「SA/DL Easy」になります。
SA/DL Easyを使うと、環境構築の必要もなく、以下のようなScriptも書かずに、Deep Learningの世界がたやすく使えるようになります。

下記を自身のパソコンで実行される場合には、PythonのScriptを保存したフォルダー内にpathが通っていること、保存した入力データのpath、学習結果とテスト結果が保存されているフォルダーのpathなどを間違えないように指定してください。

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# LecChipのデータを使って、例えば、糖鎖の構造や細胞種の判断を学習させるためのDeep Learning Python Script例

from __future__ import print_function
import numpy as np
import csv
import pandas
from keras.datasets import mnist
from keras.models import Sequential
from keras.layers.core import Dense, Dropout, Activation
from keras.optimizers import RMSprop
from keras.utils import np_utils
from make_tensorboard import make_tensorboard

np.random.seed(1671) # 再現性を良くするために

# ニューラルネットワークの構成と学習のさせ方
NB_EPOCH = 100 # 何回学習させるか、適当に決めてください
BATCH_SIZE = 2  # データセットを幾つかのサブセットに分ける
VERBOSE = 1
NB_CLASSES = 2 # 最終的な出力数
OPTIMIZER = RMSprop() # オプティマイザー
N_HIDDEN = 45  # 隠れ層のノード数、ここではLecChipのレクチン数に合わせて45としている
VALIDATION_SPLIT = 0.2 # 学習データの内、何割をテストデータとして使うか
DROPOUT = 0.3
LECTINS = 45

def drop(df):
return df[pandas.to_numeric(df.iloc[:, 2], errors=’coerce’).notnull()]

# データは最大値を1とするように規格化する
def normalize_column(d):
dmax = np.max(d)
dmin = np.min(d)
return (np.log10(d + 1.0) – np.log10(dmin + 1.0)) / \
(np.log10(dmax + 1.0) – np.log10(dmin + 1.0))

def normalize(data):
return np.apply_along_axis(normalize_column, 0, data)

# 入力するデータはCSVファイルの形式とする
df1 = drop(pandas.read_csv(r’c:\Users\Masao\Anaconda3\DL_scripts\cell.csv’)).reset_index(drop=True)
X_train = normalize(df1.iloc[:, 2:].astype(np.float64))
family_column = df1.iloc[:, 1]
family_list = sorted(list(set(family_column)))
Y_train = np.array([family_list.index(f) for f in family_column])

df2 = drop(pandas.read_csv(r’c:\Users\Masao\Anaconda3\DL_scripts\cell_test.csv’)).reset_index(drop=True)
X_test = normalize(df2.iloc[:, 2:].astype(np.float64))
familyt_column = df2.iloc[:, 1]
familyt_list = sorted(list(set(familyt_column)))
Y_test = np.array([familyt_list.index(f) for f in familyt_column])

print(X_train.shape[0], ‘train samples’)
print(X_test.shape[0], ‘test samples’)

# convert class vectors to binary class matrices
Y_train = np_utils.to_categorical(Y_train, NB_CLASSES)
Y_test = np_utils.to_categorical(Y_test, NB_CLASSES)

print(X_train)
print(Y_train)
print(X_test)
print(Y_test)

# ニューラルネットワークの具体的な構成例
# 隠れ層は2層
# 入力はLecChipのデータ(45レクチンを使用)
# 最終層はsoftmaxで活性化

model = Sequential()
model.add(Dense(N_HIDDEN, input_shape=(LECTINS,)))
model.add(Activation(‘relu’))
model.add(Dropout(DROPOUT))
model.add(Dense(N_HIDDEN))
model.add(Activation(‘relu’))
model.add(Dropout(DROPOUT))
model.add(Dense(NB_CLASSES))
model.add(Activation(‘softmax’))
model.summary()

# 学習とテスト結果状況をTensorboardに出力して可視化させる
callbacks = [make_tensorboard(set_dir_name=’Glycan_Profile’)]

model.compile(loss=’categorical_crossentropy’,
optimizer=OPTIMIZER,
metrics=[‘accuracy’])

model.fit(X_train, Y_train,
batch_size=BATCH_SIZE, epochs=NB_EPOCH,
callbacks=callbacks,
verbose=VERBOSE, validation_split=VALIDATION_SPLIT)

score = model.evaluate(X_test, Y_test, verbose=VERBOSE)
print(“\nTest score:”, score[0])
print(‘Test accuracy:’, score[1])

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# Tensorboardを使うためのPython Script

# -*- coding: utf-8 -*-
from __future__ import absolute_import
from __future__ import unicode_literals
from time import gmtime, strftime
from keras.callbacks import TensorBoard
import os

def make_tensorboard(set_dir_name=”):
ymdt = strftime(“%a_%d_%b_%Y_%H_%M_%S”, gmtime())
directory_name = ymdt
log_dir = set_dir_name + ‘_’ + directory_name
os.mkdir(log_dir)
tensorboard = TensorBoard(log_dir=log_dir, write_graph=True, )
return tensorboard

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Tensorboardを用いて可視化させるには、make_tensorboard.pyを走らせたうえで、
$ tensorboard –logdir=./Glycan_Profile_Mon_10_Feb_2025_23_06_26(./データが記録されているフォルダー)を走らせ
http://localhost:6006/にアクセスします。

(base) PS C:\Users\masao\Anaconda3\DL_Scripts> python make_tensorboard.py
Using TensorFlow backend.
(base) PS C:\Users\masao\Anaconda3\DL_Scripts> tensorboard –logdir=./Glycan_Profile_Mon_10_Feb_2025_23_06_26
Serving TensorBoard on localhost; to expose to the network, use a proxy or pass –bind_all
TensorBoard 2.0.2 at http://localhost:6006/ (Press CTRL+C to quit)

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LecChipのデータは、下記のようなCSV形式とします。
左端から、サンプル名、ファミリー名(教師データとなります)、各種レクチンの数値が並んでいます。

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学習が終わったら、モデルの保存をしておくべきでしょう。
モデルが保存してあれば復元もできますし、未知データを与えて予測させることが出来ます。
この辺りのScriptは別途書くことにします。

AIの進化ビジョン

OpenAIのサム・アルトマンが東京大学で「AIの進化ビジョン」について講演をしたという。
その中で述べていることを引用すると、次のようである。
「ある学生が「今後10年、30年、100年後の社会はどのように変化すると思いますか?」と問いかけると、アルトマンは「10年後にはAIが科学技術の進歩を加速させ、30年後には社会のあらゆる側面がAIと一体になって、ともに進化しているだろう」と即答した。100年後の未来については「現時点では想像もつかないが、人間の生活は今とはまったく異なるものになるだろう」とアルトマン氏は答える。」

AIの進歩が人類の生活に好影響を与えるのは確かだろう。しかし、それはAIがあくまでも人間のツールである段階にとどまるのではないだろうか?人が面倒くさいと思うことや、手間がかかることを他の人に代行を頼む状況とよく似ている。ここでいう他の人がAIに変わっただけのことである。面倒なことや手間がかかることを代行してもらうことで、自身はより生産性の高い仕事に専念できるようになる。AIの推論機能が高まってくれば、人が思いもしなかったような解決法が発見されるかもしれないし、それによって科学技術も加速進歩するだろう。

問題は100年後である。AIの能力が人を超えてしまうと、一般人が太刀打ちできないような天才に出会った時と同じように、恐らく知的に戦う気力を失ってしまうだろう。自分が考えたって勝てっこない、そういう劣等感が人のやる気を奪い、単にAIに生かされる動物にヒトがなってしまう可能性が多分にある。
人はその時代には生産活動から解放され、かつては収入の源泉であった知的活動も、戦っても勝てもしないAIを眼前にしてその対価さえ無価値に等しくなり、遊びふけるだけの存在になってしまっているのではないだろうか?

この時にぶつかるこの問題を克服するには、人も同様に進化してAIと同等以上の能力を獲得するしか方法がない。AIと脳が合体する時代の到来である。その時に、この生き物が人と呼べるのか?それすら確かではない。

ALAレクチンが胆管癌の治療に有効かもしれない

Department of Biochemistry, Faculty of Medicine, Khon Kaen University, Thailandらのグループは、モンキーフルーツの種から抽出された新規レクチンALAについて報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-024-84444-7

ALAは凝集素活性を示し、T- および Tn-抗原および単糖類 (Gal や GalNAc など) に対して糖鎖結合特異性を示しました。

ALAによって認識される糖鎖がヒト胆管癌 (CCA) 組織で増加していることが確認されました。ALAは、CCA 細胞、KKU-100 および KKU-213B、の細胞生存率をドーズ依存的に大幅に低下させ(最大 30 μg/mL まで)、最高濃度では約 30% の低下が観察されました。また、ALAは、細胞生存率には影響を与えない1 ~ 2 μg/mL の濃度でドーズ依存的に KKU-100 および KKU-213B 細胞の遊走および浸潤能力を大幅に低下させました。

これらの結果は、CCA治療に対するこのレクチンの潜在的な治療効果を示唆しているようです。

乾癬性関節炎(PsA)と関節リウマチ(RA)を区別できる新規糖鎖マーカー

Division of Laboratory Diagnostics, Department of Laboratory Diagnostics, Faculty of Pharmacy, Wroclaw Medical University, Polandらのグループは、乾癬性関節炎(PsA)と関節リウマチ(RA)を区別するための新規糖鎖マーカー、即ち血清クラステリンの糖鎖修飾変化、について報告しています。
https://www.mdpi.com/1422-0067/25/23/13060

PsA および RA は結合組織自己免疫疾患です。
本研究は、血清クラステリン (CLU) 濃度とその糖鎖修飾パターンがこれらの疾患を区別できるマーカーである可能性があるかどうかについて研究しています。

結果、以下の事柄が判明しました。
RA患者の血清中のCLU濃度は、PsA群と比較して有意に低く、CLU濃度に関しては、検査した群間にその他の有意差はありませんでした。

CLUに発現する糖鎖と SNA (α2-6 Sia 結合レクチン) の相対反応性は、対照群と比較して、RAおよびPsA患者で有意に高く、CLUに発現する糖鎖とMAA (α2-3 Sia 結合レクチン) の相対反応性においては、研究グループ間に有意差はありませんでした。

これらの結果は、CLU濃度とシアル酸修飾(by SNA)によってPsAとRAが区別できることを示しています。

SARS-CoV-2の感染をβ1-4ガラクトシル化N型糖鎖で阻害することが出来る

Laboratory for Functional Glycomics, College of Life Sciences, Northwest University, Xi’an 710069, Chinaらのグループは、SARS-CoV-2の感染をβ1-4ガラクトシル化N型糖鎖で阻害することが出来ると報告しています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2090123224005666?via%3Dihub

SARS-CoV-2-Spikeタンパク質(S1)には22個の潜在的なN型糖鎖修飾サイトと17個のO型糖鎖修飾サイトがあり、そのうち14個のN型糖鎖修飾サイトは複合型N型糖鎖で装飾されており、ACE2には合計7個のN型糖鎖修飾サイトが存在し、これらの部位のほとんどは複合型N型糖鎖によって占められていることが既に分かっています。

本論文では、ACE2のβ1-4ガラクトシル化N型糖鎖が SARS-CoV-2のS1結合の糖鎖受容体として重要な役割を果たしていることが実証され、多価β1-4ガラクトシル化N型糖鎖を含む単離された糖タンパク質が、S1とACE2間の相互作用を競合的に阻害し、それによって宿主細胞へのSARS-CoV-2の付着と侵入が防御されると述べられています。今更感がある論文かもですが紹介させて頂きました。

Tn-抗原を標的とすることで、乳癌の転移を抑制することが出来る

Department of Gynecology and Obstetrics, Beijing Chao-Yang Hospital, Capital Medical University, Beijing, Chinaらのグループは、Tn-抗原を標的とすることで、乳癌の転移を抑制することが出来る、と報告しています。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jcmm.70279

Tn-抗原は乳癌、特に転移性病変内で高発現しており、Tn-抗原の発現は、リンパ節転移および患者の生存率の低下と正の相関関係がありました。Tn-抗原を発現する乳がん細胞においては、上皮間葉転換およびFAKシグナル伝達経路の顕著な活性化とともに、浸潤性と転移能が向上していました。

Tn-抗原を発現する癌細胞では、標準的な上皮マーカーであるE-カドヘリンとZO-1の大幅な発現低下があり、ZEB-1、ビメンチン、カタツムリ、ナメクジなどの間葉系マーカーの大幅な発現上昇も見られました。

HPAレクチンを用いてTn-抗原陽性癌細胞を標的化することで、浸潤および転移能力が抑制されることが実証されました。HPAレクチンは、Tn-抗原を特異的に認識して結合するのに対し、PNAレクチンは、T-抗原のみを認識して結合することが知られています。PNAで処置した対照群と比較して、HPA処置群のマウスは肺転移の有意な減少を示しました。更に、免疫蛍光分析は、HPA処理が Tn-抗原陽性癌細胞の細胞突起の形成を減少させるのに対し、PNA処置は、阻害効果を示さないことも示されました。分子レベルでは、上皮間葉転換およびFAKシグナル伝達経路は、HPAで処理したTn-抗原陽性癌細胞で一貫して阻害されていることが分かりました。

うつ病の血中糖鎖マーカーが見つかる

山口大学医学部神経精神医学らのグループは、うつ病に対する新しい糖鎖マーカーについて報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-024-80507-x

WGA結合性のフォンヴィレブランド因子(vWF)を含む血漿細胞外小胞(EV)(WGA-vWF)が、性別や年齢に関係なく、うつ病患者の診断マーカーとなり得ることが報告されました。

WGA-vWFの発現は、健康な対照参加者よりもうつ病状態の大うつ病性障害患者の血漿EVで有意に低下しています。 ROC分析により、大うつ病性障害患者とHC患者の間の診断のAUC値は0.92(95%CI 0.82~1.00)であることが示されました。更に、WGA-vWFの発現はうつ病から寛解の過程で顕著に増加しており、この結果を使用すると、うつ病状態と寛解状態の大うつ病性障害患者を区別することができました (AUC 0.98、95% CI 0.93 ~ 1.00)。

Bisecting GlcNAcがアルツハイマー病の早期糖鎖マーカーである

Division of Neurogeriatrics, Department of Neurobiology, Care Sciences and Society, Center for Alzheimer Research, Karolinska Institutet, Swedenらのグループは、アミロイド陰性およびタウ陰性患者の認知機能低下を予測できる新しい糖鎖マーカー、bisecting GlcNAc、について報告しています。
https://academic.oup.com/braincomms/article/6/6/fcae371/7826117?login=false

本論文は、アルツハイマー病の早期マーカーに関する研究報告です。

アルツハイマー病では、アミロイドβペプチド (Aβ) の蓄積と凝集の増加により、脳内でアミロイドが形成されます。その後タウのリン酸化が発生し、これによって神経変性および認知機能の低下が引き起こされることが知られています。本研究では、Bisecting GlcNAc がアルツハイマー病の早期バイオマーカーとなり得る可能性があり、これによって、アミロイド/タウ陰性段階ですでに認知機能低下を予測できることが示されました。

野菜のエクソソームを用いたSARS-CoV-2抗ウイルス薬

Nebraska Center for Virology, University of Nebraska-Lincoln, NE 68583, USAらのグループは、シイタケのエクソソームから発見されたレクチンについて報告しています。
https://www.mdpi.com/1999-4915/16/10/1546

15種類の地元野菜から、エクソソームを超遠心分離によって分離しました。これらのエキソソームに対して、in vitro 疑似ウイルス プラットフォームを使用して、SARS-CoV-2感染に対する抗ウイルス活性を評価しています。
標準的なMTT法を使用したこれらエクソソームの細胞毒性は、15個のサンプルすべてが 1 × 10^10/mL のエクソソーム濃度でも有意な細胞毒性を示さないことが示されました。これらの中で、シイタケから取得したエクソソームの抗ウイルス活性が最も強く、そのEC50値は、5.2 × 10^8/mLとなりました。
エキソソームのプロテオーム解析から、シイタケ エクソソームのレクチン(シクチンと命名)が抗ウイルス活性に寄与していることが確認され、SARS-CoV-2 オミクロン変異体に対して IC50=87 nMという強力な活性を示しました。また、シクチンはC-型レクチンであり、GlcNAcに結合することも確認されました。

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