新型コロナウイルス(COVID-19)の発生率と気温およびBCGとの関係について

米国、カナダ、イタリア、スペイン、ドイツ、フランス、オーストラリア、日本、韓国、マレーシア、タイにおける新型コロナウイルス(COVID‐19)の発生状況に関するデータを用い、COVID-19の発生率に関して、気温やBCGワクチンの接種の影響を解析した結果が報告されています。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0240710

気温の影響について(平均気温モデル):
‐21℃~5.5℃の気温をリファレンスとし、
6℃~10.5℃の領域では、発生率比=1.18(95%CI: 0.87 – 1.59)
11℃~18.5℃の領域では、発生率比=0.97(95%CI 0.65 – 1.45)
19℃~36.5℃の領域では、発生率比=0.87(95%CI: 0.47 – 1.62)

BCGワクチン接種について:
BCGワクチンの接種を受けている場合、発生率比=0.37(95%CI: 0.17 -0.79)

結論としては、6℃~10.5℃の平均気温では、若干発生率が増加する傾向があるものの、平均気温が上昇したとしても発生率に関してはほとんど変化は見られない。BCGワクチンの接種に関しては、明らかに発生率の抑制に効果がある、としています。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染したCOVID-19患者の軽症者と重症者の血清中のIgG応答について

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染したCOVID-19患者に対し、(Architect and iFlash)のIgG抗体検査で軽症者と重症者の血清中のIgGを測定したところ、重症者からはすべてIgGが検出され、軽症者の場合は、IgGが検出されない場合もあったとのことです。しかしながら、中和抗体を検査する方法を用いたところ、IgGが検出されなかった軽症者からも中和抗体が検出されたとのことです。つまり、COVID-19の抗体検査でどの方法を採用するか、という問題は非常に大切だということです。

IgGが立ち上がるのは、重症者の場合は、症状が出てから平均11日目(7日~20日のレンジ)、一方軽症者の場合は平均22日目(14日~79日のレンジ)となり、産生されるIgGの総量は重症者の方が軽症者よりも多くなっています。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0241104

新型コロナウイルス(COVID-19)の重症化には年齢が関係するという普遍的な傾向、およびその理由について

新型コロナウイルス(COVID-19)において、年齢が上がるほど重症化しやすいという事実は良く知られています。この現象は、covid-19に特有のものではなく、過去に起こったSARSやMARSでも同様な傾向を示しています。
下記には、7か国の最新のCOVID-19致死率を年齢毎にまとめた結果が報告されています。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0241031

 

 

 

 

 

年寄りは危ない、上図は見事にこのことを証明しています。しかし、何故年齢が上がるに従って致死率が上昇するのか?この原因については、まだまだ明確にメカニズムが分かっているとは言えません。

しかし、一般論的に、年齢が上がると、(1)樹状細胞や肺胞マクロファージが減少する、(2)ウイルス由来のRNA受容体であり自然免疫を活性化するTLR7やMDA5の発現量が低下する、(3)逆に好中球や単球マクロファージらは増加傾向にあるものの、その食作用らの免疫機能は年齢と共に減少する傾向にある、ということは言えます。つまり、自然免疫と獲得免疫のアンバランスが重症化を招いているというのが無茶苦茶大まかな描像のようです。

https://www.jci.org/articles/view/144115

新型コロナウイルス(COVID-19)とABO及びRh±血液型の関係について

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染リスクについて、ABO血液型の影響を7,503case、296,216controlを使って調査した結果が、University of Bolognaらのグループから報告されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7500631/

A型:OR=1.23(95%CI: 1.09-1.4)
B型:OR=1,05(95%CI: 0.96-1.15)
AB型:OR=1.09(95%CI: 0.94-1.26)
O型:OR=0.77(95%CI: 0.67-0.88)

とのことです。

一方、Sakarya Universityのグループは、Rh+の血液型が新型コロナウイルスでより重症化する割合が高そうだと報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32965363/

新型コロナウイルス(COVID-19)における液性免疫応答(抗体を中心とした免疫反応)には永続性がないのはどうしてか?

Harvard Medical Schoolらのグループは、液性免疫応答(抗体を中心とした免疫反応)にはどうして永続性がないのか?について報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32877699/

生体に侵入するウイルスなどの外来性の異物の排除には自然免疫に加えて、抗体を中心とする適応免疫が活躍します。感染の初期には低親和性のIgG抗体が産生されますが,時間の経過とともに産生されるIgG抗体は成熟し抗原に対する親和性が上昇していきます。これは,胚中心(Germinal center:免疫応答の際に脾臓やリンパ節などの免疫組織に形成される微小な構造)において高親和性の抗体を産生するB細胞が分化するからです。感染の初期には抗原に特異的なB細胞がプラズマ細胞へとすみやかに分化し低親和性の抗体を産生しますが、一部のB細胞は転写因子Bcl6を発現し(Bcl-6 Tfh細胞)、胚中心を形成します。

実は、COVID-19においては、この杯中心の形成が抑制されていることが表題の原因のようです。何故、胚中心の形成が抑制されるのか?について、詳細なメカニズムは分かっていませんが、TNF-αのようなサイトカインが過剰に産生されるとBcl6-Tfh細胞の分化が抑制され、胚中心も結果として形成されないとのことです。

この現象は、COVID-19のみでなく、Ebora, Marburg disease, H5N1 influenzaでも起こるようです。

癌に対する糖鎖創薬の在り方について

糖鎖は細胞の顔と言われるように、細胞の状態で大きく糖鎖が変化します。癌化でも特異的な糖鎖構造変化が起こることが知られており、糖鎖を創薬ターゲットとして様々な診断薬や治療薬の開発が行われています。癌化で発生する糖鎖構造の変化は、癌の種類によってもことなるのですが、共通する特徴としては、下記があります。

(1) N-型糖鎖の多分岐化
(2) O-型糖鎖の刈込
(3) 末端シアル酸修飾の増加
https://jitc.bmj.com/content/8/2/e001222.long

しかし、これらに加えて、癌化すると糖鎖修飾量自体が増加したり、ハイマンノース構造も増加するという特徴もあるようです。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32143591/

上記引用論文を踏まえて、糖鎖創薬のストーリーを以下のようにまとめてみます。

  • 抗体薬物複合体(Antobody-drug conjugates: ADC):レクチンなどを用いてターゲットとする糖鎖が発現している癌細胞を狙い撃ちする。この場合に、二重の糖鎖特異性を持たせた抗体でより精密にターゲットを狙い撃ちする手法が更に有効(例えば、GD2ガングリオシドとMUC1を二重に狙い撃ちする)
  • Siglec阻害剤:Siglecは、免疫細胞のほとんどに発現しており、シアロ糖鎖との結合で信号が入ると免疫反応が抑制される。
  • Galectin阻害剤:腫瘍細胞にはgalectinが高発現しており、免疫チェックポイントCTLA-4と結合し免疫反応を抑制したり、galectin-1はT-細胞のアポトーシスを誘導する
  • 免疫チェックポイント阻害剤:PD-1/PD-L1も強く糖鎖修飾を受けており、それを踏まえて優れた阻害効果を示す分子標的薬が有望
  • C-typeレクチン:DC-SIGN, Dectin-1らは免疫増強に有効、逆にNK62DGやMicleは免疫抑制的に働く

新型コロナウイルス(COVID-19)におけるIgG応答の特徴について

Chulalongkorn Univ.のグループは、タイにおける新型コロナウイルス(COVID-19)における患者のIgG応答について、次のように報告しています。
この研究は、2020年3月10日から5月31日までに解析された384名の患者のデータに基づいています。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0240502

血清中のIgGは、感染後2週間を過ぎると立ち上がってくる。
感染が軽症の患者では、感染後2週間たっても20%の患者からはIgGが検出されなかった。
軽症、中症、重症と症状が重くなるにしたがってIgGの発現量が増加する。
男性の方が女性よりもIgGの発現が高くなっている。

 

 

 

 

 

他所からの報告と傾向は相関していますね。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のS-タンパク質に発生した変異について:A930V, D614G, A706S, A879Sなど25個の変異が発生

2020年6月6日現在のNCBI-Virus-databaseにインドから登録されている新型コロナウイル(SARS-CoV-2)のRNAシーケンスから、中国武漢で感染拡大が始まった当初の株に比較して、どんな変異が発生したかについての研究成果が報告されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7521409/

25個の変異が発生しており、発生個所は、4個のクラスター(1-100, 148-255, 570-680, 820-930)に分かれるようです。

 

T572I, A879S, A892V, A930Vの変異は、タンパク質の二次構造に大きな変化を引き起こしており、T572Iはcoilded→helixへ、他の三つはhelix→beta sheetへの構造変化を招いています。A930V, D614G, A706S, A879Sの変異は、タンパク質の構造に比較的大きな違いを生んでいるようです。特に興味深いのは、D614Gの変異が実に88%のRNAシーケンスで起こっており、インドで感染拡大している新型コロナウイルスの中で主流になっているということです。このD614Gについては、RBDのopen conformationを助長し、その結果感染力が上がっていると言われています。

R408I, E471Qは、インドでのみ見られている変異とのことです。

新型コロナウイルス(COVID-19)の早期検査に血清中のSARS-CoV-2のカプシドタンパク質(N-protein)の検査が非常に有効

新型コロナウイルスの検査には、感染の有無を検査するRT-PCRと感染履歴があるかどうかを検査する抗体検査があることは周知の通りです。
新型コロナウイルスに感染して抗体が立ち上がるまでには一週間以上が必要であることから、抗体検査を早期診断に使うことはできません。血清中のSARS-CoV-2のカプシドタンパク質に着目すれば、抗体が立ち上がる以前の早期でも新型コロナウイルスの感染を検査できるという報告があります。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7498565/

ROCカーブでは、AUC=0.9756 (95% CI)、感度=92%、特異度=96.8%が得られたとのことです。なお、カプシドタンパク質のカットオフ値は、1.85 pg/mLでした。

素晴らしい成果ではないでしょうか・・・。

新型コロナウイルス(COVID-19)の治療薬として期待されるトウゴマとヨウシャヤマゴボウ由来レクチンの融合タンパク質

新型コロナウイルス(COVID-19)の治療薬として、トウゴマの種から抽出されるリシンA鎖の変異体(RTAM)とヨウシャヤマゴボウの葉から抽出されるPAP1の融合タンパク質(RTAM-PAP1)の有用性について、SARS-CoV-2の各種タンパク質へのアフィニティー評価とマウスを用いた毒性試験の観点から報告しています。
https://www.mdpi.com/2072-6651/12/9/602/htm

RTAM-PAP1、ACE2、SARS-CoV-2の患者由来の抗体B38らと、SARS-CoV-2の各種タンパク質の間の結合力をCoDockPP, HASSOCK2.2, ZDOCKという3次元分子構造解析ソフトを用いて評価した結果、RTAM-PAP1は、ACE2よりも強く、総合的にB38と同等な結合力を示しました。
また、マウスを用いた毒性試験では、1mg/kgのドーズでも副作用は発生しなかったとのことです。

新型コロナウイルスの治療薬として、トウゴマとヨウシャヤマゴボウ由来レクチンの融合タンパク質の有用性を示すものになっています。


トウゴマ

 

 


ヨウシャヤマゴボウ

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