N1H1インフルエンザウイルスにおける重症化と年齢の関係性の背後にHigh mannose糖鎖修飾の変化がある:フェレット・モデル

2009年のN1H1インフルエンザの大流行において、新型コロナウイルスと同様に、若年者は軽症であり、年齢が上がるに従って重症化するという傾向が見えていました。

下記のグループは、フェレットをモデルとして、N1H1インフルエンザの重症化と年齢の関係性に糖鎖修飾の変化が関わっているのではないか?という視点でレクチンマイクロアレイを用いた実験結果を報告しています。比較糖鎖プロファイリング解析のサンプルにはフェレットの肺を使用しています。
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jproteome.0c00455

結果として、
年老いたフェレットでは、重症化とともにHigh mannoseが高発現しています。
離乳したばかりの若いフェレットでは、感染して3日から5日ではHigh mannoseの発現が上昇するものの、それ以降は健常時と同レベルにまで糖鎖修飾が回復し、軽症で済んでいます。
重症化に糖鎖修飾が深く関係していることを伺わせます。

Tn-抗原(α-GalNAc)の高発現が癌の増殖を促進する

癌が進行すると、O-型糖鎖が刈り込まれてTn-抗原(α-GalNAc)が高発現するという変化が良く見られます。このTn-抗原の高発現と癌細胞の増殖や転移との関係については、まだ十分な研究がおこなわれているとは言えません。下記のグループは、マウスの直腸がん(MC38細胞)のモデルを使用し、CRISPR/Cas-9を用いて、Tn-抗原のT-抗原への伸長に関与する糖転移酵素(C1galt1c1)をノックアウトした細胞株MC38-Tn(high)を作ることで、Tn-抗原の昂進が如何なる遺伝子発現の変化を引き起こしているかについて検討しています。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fonc.2020.01622/full

結果として、1,348遺伝子に発現量の変化が起こり(log2 fold change)、641遺伝子がdown、707遺伝子がupしていました。包括的には、抗原提示に関係するシグナルパスやT-細胞活性化に関するシグナルパスが抑制されており、癌細胞の増殖や転移を促す方向に変化しているようです。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のRT-PCRを使った検査には、感染の兆候が出てからの時期とサンプル取得の方法がクリティカルだ

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検査には、RT-PCRがGold Standardになっています。

しかし、RT-PCRの結果については、気を付ける必要があります。感染の兆候が表れてから、4日目位までは鼻咽頭からのRT-PCR検査の信頼性は高いのですが、10日を過ぎてしまうと検出能力が落ちてしまい、偽陰性になる非常に確率が高くなります。
それに対して、糞便からの検査は、感染初期には信頼性は高くはないのですが、感染して日数が経ってもウイルスを検出することが可能であり、最終的にウイルスが排除されたかどうかまで判断するには、鼻咽頭からのサンプル取得よりも糞便を使う方が良いという結果になっています。
https://bmcmedicine.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12916-020-01810-8

 

 

 

 

この図において、ダークブルーとダークグレーは、感染後2週間前、2週間後のウイルス検出をそれぞれ示し、ライトブルーとライトグレーは偽陰性を示します。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とHCoVsの交差抗体の存在について

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)と風邪の一因となるコロナウイルス(HCoVs)間の交差抗体について調査した結果が下記のグループから報告されています。
https://science.sciencemag.org/content/early/2020/11/05/science.abe1107

新型コロナウイルスに感染していない人でも、HCoVsの抗体が交差反応を示すことによって、SARS-CoV-2の感染を抑制する効果があるとのことです。
この交差抗体は、SARS-CoV-2のRBDをエピトープとするものではなく、アミノ酸配列に共通配列が多い、S2領域をエピトープとするもののようです。

 

 

 

 

また、この交差抗体を持つ人は若年層に多く、若年層がCOVID-19で重症化しにくいという現象にもHCoVsの抗体が交差反応を通して関わっている可能性があります。

TNF-αとIFN-γの協同効果が、新型コロナウイルス(COVID-19)の重症化の核心にあるようだ

新型コロナウイルスでCOVID-19を発症し重症化した場合には、IL-6, IL-18, IFN-γ, IL-15, TNF-α, IL-1α, IL-1β, IL-2といったサイトカインが高発現し、いわゆるサイトカインストーム状態に陥ります。COVID-19の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)が、このサイトカインストームと直接的に相関していることは広く知られています。

このような多様なサイトカインの発現において、特にTNF-α, IFN-γの協同効果が重症化の原因になっているらしいということが下記のグループから指摘されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7605562/

TNF-α, IFN-γの協同効果が、COVID-19の症状を模倣するということのマウスを用いたin vivo検証例が下記です。

 

 

 

 

また、SARS-CoV-2を感染させたhACE2トランスジェニックマウスにTNF-α, IFN-γの中和抗体をアプライすることで、生存率が大きくアップすることもin vivoで検証されています。

 

 

 

 

即ち、TNF-α, IFN-γを含めその下流にあるシグナルパスに対する的を突いた阻害剤がCOVID-19の重症化治療につながりそうです。

糖尿病は、新型コロナウイルス(COVID-19)の重症化や死亡率を押し上げる

韓国の臨床研究から、糖尿病が新型コロナウイルス(COVID-19)に与える影響について統計解析した結果が報告されています。
https://e-dmj.org/journal/view.php?doi=10.4093/dmj.2020.0141

年齢、性別、高血圧、脂質異常症、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患、循環器疾患、心房細動、末期腎臓病、癌らの影響を加味して計算された糖尿病がCOVID-19に与えるOR(オッズ比: 95% CI)は、次のようでした。

入院: 1.071 (0.722 – 1.588)
酸素吸入: 1.349 (1.099 – 1.656)
人口呼吸器: 1.930 (1.276 – 2.915)
死: 2.659 (1.896 – 3.729)

新型コロナウイルス(COVID-19)において、ヒドロキシクロロキンのウイルス増殖阻害効果は認められなかった

新型コロナウイルス(covid-19)の治療薬の候補の一つにヒドロキシクロロキンがあります。この物質は、RNAポリメラーゼを阻害することでウイルスの増殖を阻止するとされています。
作用機序については、細胞壁にゲートを開き、亜鉛イオンが細胞内に入り込めるようにすることで、その亜鉛がRNAポリメラーゼの働きを阻害するというものです。

新型コロナウイルスに対して、このヒドロキシクロロキンの効果を投与群と非投与群を比較した結果が報告されています。評価の指標としては、新型コロナウイルスの量をRT-PCRにおけるPCR反応閾値に達するサイクル数(Ct)を用いています。
誠に残念ながら、有効性を示すデータは得られなかったということです。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7592126/

過日、同じように作用機序は違いますがウイルスの増殖を阻害するレミデシビルについて、効果が認められないという発表をWHOが行っています。
益々持って、新型コロナウイルスの治療薬には先が見えません。

新型コロナウイルスの感染受容体であるACE2は、上気道の上皮細胞に存在する繊毛細胞にかなり局在的に存在している

新型コロナウイルスにおいて、主要な感染受容体は、ACE2であることは良く知られています。そのACE2の発現状態について、詳細に調査した結果が報告されています。
https://www.nature.com/articles/s41467-020-19145-6

ACE2は、遺伝子発現解析にて、鼻咽頭、肺、小腸、腎臓、精巣に発現が認められるとされていますが、ACE2抗体を用いた免疫染色では、肺におけるACE2の発現は、その他器官よりも相対的に少ないようです。また、ACE2は、上気道の上皮細胞に存在する繊毛細胞にかなり局在的に存在して発現しているようです。

一方、ACE2の発現量は、年齢、性別、喫煙とはほとんど相関がないことも分かりました。SARS-CoV-2の感染で心配される高血圧治療に用いられるAngiotensin-converting enzyme inhibitors (ACEI)、angiotensin II receptor blockers (ARBs)らの薬剤投与もACE2の発現量には影響を及ぼさないことが分かりました。

従って、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染防止や重症化については、以下が指摘されます。
(1)口腔鼻腔へのSARS-CoV-2阻害剤が感染防止予防に有効
(2)ACE2の発現量自体はCOVID-19の重症化とは無関係

インフルエンザの重症化とHost Cellのhigh Mannose修飾が相関しているという

インフルエンザウイルスについては、ヒトの咽頭から気管支に至る気道上皮細胞に発現しているα2-6Siaとインフルエンザウイルスが持つHA(hemaggulutinin)の結合が感染を引き起こすという事実は良く知られています。しかしながら、インフルエンザの重症化と糖鎖構造の関係については、良く知られていません。
下記のグループは、レクチンマイクロアレイを用いて、インフルエンザの重症化とHost Cellの糖鎖構造について、フェレットを用いて研究しています。
https://www.pnas.org/content/117/43/26926.long

インフルエンザウイルスに感染するとHost cellの糖鎖修飾が変化し、High mannose構造の修飾が昂進し、その変化が病態の重症化と相関しているという結果が得られています。興味深い現象です。免疫細胞には、High Mannose結合性のC-タイプレクチンが発現していることから、結果として自己組織に炎症が起こるという可能性が疑われます。

新型コロナウイルス(COVID-19)の重症化の影に、S-タンパク質にブドウ球菌エンテロトキシン様の毒素配列が存在している可能性

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のS-タンパク質の配列において、そのS1ドメインとS2ドメインの境界部に「PRRA」という他のコロナウイルスには見られない配列が挿入されているという事実は良く知られています。また、この配列が存在することで、ヒトへの感染能力が増加していることもたびたび指摘されています。

この配列周辺に(661~685)、ブドウ球菌のエンテロトキシンという毒素に似た配列が存在することについて考察している論文があります。
https://www.pnas.org/content/117/41/25254.long

この細菌毒素様配列にT細胞受容体(TCR)が結合することで、毒素性のショック症状が誘発されることが重症化に関与しているのでは?と述べています。この推論は、分子動力学的なタンパク質の構造解析から行われたものであり、実際の検証が行われることを期待します。

 

SEBはブドウ球菌エンテロトキシンを表し、SARS-CoV-2の661~685の配列と似た構造になっていることが分かります。

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