アーカイブ: 2024年10月30日

野菜のエクソソームを用いたSARS-CoV-2抗ウイルス薬

Nebraska Center for Virology, University of Nebraska-Lincoln, NE 68583, USAらのグループは、シイタケのエクソソームから発見されたレクチンについて報告しています。
https://www.mdpi.com/1999-4915/16/10/1546

15種類の地元野菜から、エクソソームを超遠心分離によって分離しました。これらのエキソソームに対して、in vitro 疑似ウイルス プラットフォームを使用して、SARS-CoV-2感染に対する抗ウイルス活性を評価しています。
標準的なMTT法を使用したこれらエクソソームの細胞毒性は、15個のサンプルすべてが 1 × 10^10/mL のエクソソーム濃度でも有意な細胞毒性を示さないことが示されました。これらの中で、シイタケから取得したエクソソームの抗ウイルス活性が最も強く、そのEC50値は、5.2 × 10^8/mLとなりました。
エキソソームのプロテオーム解析から、シイタケ エクソソームのレクチン(シクチンと命名)が抗ウイルス活性に寄与していることが確認され、SARS-CoV-2 オミクロン変異体に対して IC50=87 nMという強力な活性を示しました。また、シクチンはC-型レクチンであり、GlcNAcに結合することも確認されました。

ホルマリン固定組織標本と凍結組織標本では、レクチン染色の様子が大きく異なる

岐阜大学医学部らのグループは、 ホルマリン固定組織標本と凍結組織標本では、グライコカリックスのレクチン染色の様子が大きく異なると報告しています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0344033824005715?via%3Dihub

驚くべきことに、凍結組織標本とホルマリン固定組織標本との間ではレクチン染色所見に多くの差異があることが判明し、これはFFPE処理がレクチン受容体に影響を及ぼし、凍結切片の方が正確なレクチン染色の情報を与えることが示唆されました。

凍結組織標本のレクチン染色から、以下のことが判明しました。
正常な肝細胞は、PNA、RCA I、SBA、UEA I、GSL I、サクシニル化WGA、ECL、GSL II、STL、および VVL に対して強い陽性染色を示す。
対照的に、肝細胞癌サンプルは DSL および GSL II に対して強い陽性を示す。
正常な肝細胞は複数のGalNAc関連レクチン (PNA、SBA、GSL I、および VVL) に対して陽性ですが、これらは肝細胞癌サンプルでは検出されない。

また、結腸直腸癌の肝転移では、DBAおよびUEA I 染色が強く陽性であり、黒色腫肝転移では、ConA、WGA、サクシニル化WGA、および GSL II が強く発現していました。

2024年のノーベル物理学賞に甘利俊一先生が入っていないのは変だ

2024年のノーベル物理学賞をニューラルネットワークに貢献した2名の科学者が受賞したのは周知の事実です。
自分が富士通に在籍していた時期、ニューラルネットワークの先駆けとなる甘利俊一先生の論文を読み、将来のコンピューターとしての可能性を熱く仲間と語り合っていたことを思い出し、甘利先生が受賞者に入っていないことにとても違和感を覚えました。
因みに、当時のパソコンの能力では、ニューラルネットワークをソフトウェアーとして実現するには無理があり、ハードウェアーとしての構築を仲間とともに考えていました(笑)。

甘利先生の先駆的な研究:
1.A Theory of Adaptive Pattern Classifiers、1967年
2.Characteristics of randomly connected threshold-element networks and network systems、1971年
3.Learning Patterns and Pattern Sequences by Self-Organizing Nets of Threshold Elements、1972年
4.Characteristics of Random Nets of Analog Neuron-Like Elements、1972年

ヒト内在性レクチンマイクロアレイ

Department of Life Sciences, Imperial College London, London, United Kingdomのグループは、ヒト内在性レクチンマイクロアレイについて報告しています。
https://www.jbc.org/article/S0021-9258(24)02371-8/fulltext

7つの異なる構造グループから、39個の異なる糖鎖結合性ドメインを持つヒト内在性レクチンマイクロアレイがこのグループによって開発されました。
次が搭載されているレクチンのグループとリストです。
MBP, SP-A, SP-D, Colk1
MMR CRD4, Langerin, DC-SIGN, DC-SIGNR, Prolectin, LSECtin, Endo180 CRD2, Mincle, Dectin-2, BDCS-2, Dectin-1
ASGPR1, ASGPR2, MGL, SRCL
Galectin-1, Galectin-2, Galectin-3, Galectin-7, Galectin-4N, Galectin-4C, Galectin-8C, Galectin-9N, Galectin-9C
Siglec-1, Siglec-3, Siglec-5, Siglec-7, Soglec-9, Siglec-11
Intelectin-1, Intelectin-2
MMR-CR, Ficolin-1, Chl3-L2

ヒューマングライコームアトラスへのレクチン・フィルター機能の搭載はどうだろう

本ブログ記事は、いつもの論文紹介とはちょっと違います。日本の大規模プロジェクトである「ヒューマングライコームアトラス」への本ブログ著者のつぶやきです。

ヒューマングライコームアトラスができた時に、レクチンのフィルター機能を追加してみてはどうでしょうか?即ち、MS解析によって網羅的に構造決定した糖鎖の発現状況に対して、各種のレクチンの糖鎖結合特異性と言うフィルターをかけられるようにしてみるということです。そうすると、レクチンにはそれら糖鎖の発現状態がどういう風に見えるのか?がクリヤに「見える化」されると思います。

ヒトが視覚的に糖鎖構造の違いとしてみているものの多くは、実際には体内での生化学反応にあまり意味がないものである可能性があるのではないでしょうか。体内で、どんな糖鎖構造の違いが、糖鎖の翻訳者であるレクチンによって「どの位意味深な差として認識されているのか?」ということがとても大切であり、それを見える化できる「レクチン・フィルター」が存在すれば、とても有効なアトラスになるのではないか?という問いかけです。医療への応用という観点からは、レクチン・フィルターとしては、ヒトの内在性レクチンを網羅すると、より実践的だろうと思います。例えば、DC-SIGNフィルターとか、MGLフィルターとか、Dectin-1フィルターとか、Siglecフィルターとか、Galectinフィルターというようなフィルターセットなのです。逆に、ヒトの内在性レクチンとは糖鎖の認識能が異なるレクチン・フィルターがあれば、思わぬ応用が開ける可能性もあるかも知れません。

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