アーカイブ: 2020年12月8日

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)における感染経路としてCD147も疑われる

エンベロープを持つウイルスにおいては、宿主細胞の細胞膜表面に存在する受容体とエンベロープタンパク質の結合が感染をイニシエートします。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)においては、ACE2がその受容体になるということが一般的に認識されています。ACE2は、肝臓、肺、胃、腎臓、大腸らに発現していますが、肺におけるACE2の発現はむしろ少なく、COVID-19の重症化を鑑みれば、他の感染ルートが存在していることが疑われます。免疫細胞に広く発現しているC-型レクチンもその候補ではありますが、以下のグループは、CD147が感染経路になり得るということを示しています。
https://www.nature.com/articles/s41392-020-00426-x

CD147とS-タンパク質の相互作用は、SPR及びELISA法で検証され、VeroE6, BEAS-2B細胞を用いた実際の感染実験も行われています。
CD147を介した感染は、そのメカニズムとして細胞膜融合ではなく、エンドサイトーシスであるとのことです。

ディスポーザブルな新型コロナウイルス(COVID-19)用qPCRチップ

ディスポーザブルな新型コロナウイルス(COVID-19)用qPCRチップの試作例が、Imperial College Londonのグループから報告されています。もちろん、このチップは、他の感染症にも使えます。
https://www.nature.com/articles/s41467-020-19911-6

チップは、非常に簡単な構造で、Si基板の上に作り込まれています(チップのサイズは1cm角程度)。Si 4インチ基板で作成した場合のコストですが、約40円/チップということなので、確かにディスポーザブル可能でしょう。
チップの温調はSiに電流を流すことで行われ、検出はmethylene blue(MB)を酸化還元材として使用し電気化学的に行い、MBはDNAのインターカレーターにもなるので、DNAが増幅されると電流が変化することを利用しています。

新型コロナウイルス(COVID-19)において、肥満は危険です

Jinyun People’s Hospital, Chinaのグループは、新型コロナウイルス(COVID-19)と肥満との関係をレポートしています。
https://eurjmedres.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40001-020-00464-9

12,591名のCOVID-19患者の統計的な解析により、新型コロナウイルスに感染し重症化したヒトのBMI(Body Mass Index)は、軽症者よりも高いことが示されました(MD(BMIの平均値差)2.48 kg/m2, 95% CI [2.00 to 2.96 kg/m2])。更に、COVID-19の病態において、肥満はより重症化を招きやすいことが示されました、例えば、ICU治療(OR = 1.57, 95% CI [1.18–2.09]、ECMO使用(OR = 2.13, 95% CI [1.10–4.14])。

ナイーブB細胞の過剰な浸潤が新型コロナウイルス(COVID-19)の重症化のきっかけを作る

新型コロナウイルス(COVID-19)の患者では、CD4+/CD8+ T細胞、形質細胞、マクロファージらの過剰な肺組織への浸潤が共通して起こっており、これが肺組織へのダメージやその繊維化につながっていると理解されています。
National Defense Medical Center, Taipeiのグループは、この引き金になっているのがナイーブB細胞の過剰な浸潤であるとレポートしています。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0242900

以下のようなメカニズムが考えられます。
COVID-19は、β2-インテグリンやα4β1インテグリンの活性化を介して、縦隔リンパ節へのナイーブB-細胞の蓄積やその活性化を引き起こします。SARS-CoV-2のS-タンパク質によって活性化されたナイーブB-細胞の過剰な浸潤により、多量のIgMが分泌され、液性免疫応答が活性化されます。これにより、多量の単球が肺組織にリクルートされ、マクロファージへと分化します。分泌されたIgMは同時に、補体システム、樹状細胞のFc受容体、そしてマクロファージを活性化し、SARS-CoV-2の抗原提示を増加させるとともに、食作用を強化します。加えて、SARS-CoV-2の抗原提示の増加は、IL-12依存の形質細胞の分化を通じて濾胞外反応を加速し、胚中心の形成とB-細胞の成熟を抑えてしまいます。

結論として、ナイーブB-細胞をターゲットとする治療法の重要性が提案されています。

新型コロナウイルス(COVID-19)において、IgM Memory B細胞の減少が重症化と相関している

新型コロナウイルス(COVID-19)において、一般的には、自然免疫と獲得免疫のアンバランスが重症化の引き金を引くのではないか?と考えられています。
Univ. of Pavia(イタリア)のグループは、IgM Memory B細胞の減少が重症化に関係していることを示唆しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-020-77945-8

IgM Memory B細胞は、健常者では、中央値=65.0/uL(IQR: 51.0 – 85.0/uL)であるのに対して、COVID-19患者では、中央値=5.9/uL(IQR: 2.1 – 13.9/uL)と大幅に減少しており、評価されたCOVID-19患者数は66名と少ないのですが、IgM Memory B細胞の減少は、重症化と相関していることも示されました。
年齢、性別らと、このIgM Memory B細胞の減少との間には相関は見られませんでした。

HCV感染に由来する肝細胞癌の糖鎖マーカーについて:Core FucoseとBisecting GlcNAc修飾を受けた二分岐N-型糖鎖が候補

HCV感染に由来する肝硬変を伴う肝細胞癌のバイオマーカーについての研究報告があります。
https://www.mdpi.com/1422-0067/21/23/8913

A2G1(6)FB(Core FucoseとBisecting GlcNAc修飾を受けた二分岐N-型糖鎖)が優れた糖鎖マーカーになると結論されています。

 

 

 

下図において、TNMはTumore-node-metastasisの略であり、TNM=1, TNM=2, TNM=3, TNM=4は、肝細胞癌のステージを表します。既存マーカーである、AFP, PIVKA-IIらとは、明確な相関を示さず、A2G1(6)FBのマーカーとしての優秀さが示されています。

新型コロナウイルス(COVID-19)とインフルエンザA/Bを判別できる良い指標がある

新型コロナウイルス(COVID-19)とインフルエンザの初期症状はよく似ています。
この二種の感染症を区別するには、RT-PCRや抗体検査しかないのでしょうか?

Sapienza Univ. of Romeのグループは、白血球の1種である単球の数値が両者の良い判別指標になると報告しています。
https://www.infezmed.it/media/journal/Vol_28_4_2020_9.pdf

単球の絶対数が0.35×10^3個/mL以上であると、COVID-19をインフルエンザA/Bと判別可能であるとしています。AUC=0.68(感度=0.992, 特異度=0.368)

このことは、COVID-19とインフルエンザA/Bでは、やはり免疫応答が異なっていることを強く示唆しています。

新型コロナウイルス(COVID-19)からの回復やウイルスの完全排除には、S-タンパク質或いはそのRBDに特異的なIgGが鍵となる

武漢における1850人の新型コロナウイルス(COVID-19)患者から、SARS-CoV-2に対するIgGの動的変化を調査しました。もしもIgGの産生量が少ないと、回復後(退院後)のウイルス完全排除に問題があり、RT-PCRによるSARS-CoV-2ウイルス検査で再陽性になる可能性があると指摘されています。
https://www.nature.com/articles/s41467-020-19943-y

IgGの動的変化について、以下のようなことが示されています。

  • 軽症者の場合に比べて、重症者の場合は、IgGの産生が1週間近く遅れる傾向がある。
  • 重症者の場合は、IgGの産生レベルは顕著に高くなり、高齢者の場合においても、IgGの産生レベルは高くなる傾向にある。
  • 退院時にIgGの産生レベルが低い患者の場合には、SARS-CoV-2のRT-PCR再検査で陽性となる場合があり、注意する必要がある。

新型コロナウイルス(COVID-19)の死亡率と関連した免疫関連のバイオマーカーを同定

新型コロナウイルス(COVID-19)の重症化においては、サイトカインストームが発生しているということが定説となっており、血中サイトカイン濃度の変化については多くの研究例が存在しています。
その中でも特質すべき幾つかの研究には、既に本ブログ記事の中でも紹介していますが、

本稿においては、イタリアにおけるCOVID-19の患者から得られた結果を紹介します。
https://insight.jci.org/articles/view/144455

臨床的なパラメーターとしては、好中球/リンパ球比、LDH、CRP、そしてD-dimerらの上昇が死亡率と相関していることが示されています。

血中のサイトカインについては、66種類が網羅され、その中でも、MCP-1/CCL2, sTNFRSF1A, MMP-9, NGAL, S100A9, sST2, IL-10, IL-15がCOVID-19の重症化に深く関係しているという事が示唆されています。
因みに、
MCP-1/CCP, sTNFRSF1Aは、NK-kB依存のマーカー、
MMP-9, NGAL, S100A9は、好中球由来、
sST2は、敗血症マーカー、
IL-15は、NK-細胞の活性化と機能に関連、
IL-10は、重度の肺炎の反作用、
として議論されています。

重症化のメカニズムが具体的に判明するに従って、有効な治療薬が絞られていくことでしょう。

新型コロナウイルス(COVID-19)においては、65歳以上で重症化が顕著であることから、免疫賦活栄養剤の役割が今更ながら着目される

新型コロナウイルス(COVID-19)においては、ワクチンの安全性・有効性の確認にはまだ時間がかかること、重症化を食い止める有効な治療薬がないことなどから、今更ながら免疫賦活栄養剤が着目されます。特に、65歳以上の高齢ではCOVID-19の重症化率が高くなることから、栄養免疫学研究の重要性と緊急性が上がっています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7211076/

COVID-19の致死率は年齢とともに上昇しますが、50~59歳で0.2%、60~69歳で0.4%、70~79歳で1.3%、80歳以上では3.6%となっているようです。

免疫賦活栄養剤として、特に着目されるのが、ビタミンC、ビタミンD、そして亜鉛です。それぞれの免疫賦活に関する知見を以下に示します。

ビタミンCの役割
ビタミンCは、肺炎の治療において有効であることが確認されています。ビタミンCは、免疫機能を担う白血球の一つである好中球の活性維持や増強に関与しているため、免疫機能を高め、ウイルスに対する抵抗力を高める効果があります。潜在的なメカニズムの観点から、感染症が酸化ストレスを増加させることはよく認識されています。感染症は通常、酸化剤である活性酸素を放出する食細胞を活性化します。ビタミンCは、これらの影響を打ち消すことができる有名な抗酸化物質となります。

ビタミンDの役割
ビタミンDの受容体は多くの免疫細胞に発現しており、ビタミンDは、肝臓で25(OH)D3に変換され、免疫細胞の働きで1,25(OH)2D3という活性形に変換されます。ビタミンDが欠乏すると、ウイルス急性呼吸器感染症のリスクが高くなり、ビタミンD代謝物は、インターフェロンIFN-γ、CXCL8、CXCL10らケモカイン、IL-6など炎症性サイトカイン、細胞壊死因子TNF-αの発現および分泌を変調することが知られています。

亜鉛の役割
亜鉛が欠乏すると、CD4+, CD8+ T-細胞の減少を伴った胸腺の萎縮、末梢血リンパ球数の減少、ヘルパーT-細胞からのサイトカイン産生の減少、NK細胞の細胞障害活性の低下、好中球細胞外トラップ(病原体に結合するネットワーク)の形成阻害など、細胞性免疫の機能低下が発生することが知られています。

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